体験的音声学~言葉の音のことさまざま

言語の音声を中心に、いろいろ考えます

いわゆる「在日朝鮮人」の方から習った韓国語の発音

 大学生の頃、朝鮮語もしくは韓国語の学習に凝ったときがありました。

 

 当時はまだ学習書が少なく、詳しいものは大学書林の『朝鮮語四週間』でしたが、そこに書かれている話し言葉というのが、韓国人によると、時代劇で聞くような言い方だということでした。

 

 とっつきやすかったのは、白水社の『エクスプレス朝鮮語』でした。表現を色々覚えることができました。そして良かったのは、梅田博之氏の『NHKハングル入門』でした。エクスプレスと違って、用言の活用を「語基」で説明せず、語尾と母音調和で説明していくのが分かりやすかったのです。これらの違いは現在でも各書に見られますが、学派の違いか何なのか、私は知りません。

 

 さて、発音で一番困ったのが、母音の어です。前回の記事でも触れたように、本によってこの発音記号は[ə]とあったり、[ɔ]とあったりしました。ところが、この二つは英語では完全に異なる音声です。

 

 耳で聞くと、確かに[ɔ]に似ています。しかし、そのように発音しても、韓国人からOKが出ません。英語の[ə]では、当然お話になりません。母音のことなので、向こうも説明しにくいらしく、これには困りました。

 

 アルバイト先で、朝鮮民主主義人民共和国国籍のある女性と知り合いましたが、母音で困っていることを聞くと、いわゆる朝鮮人学校ではこう習ったという方法を教えてくれました。

 

 それは、顎を置くに引きながらオと発音するというものでした。さすがに実用的で、その日から私もその発音ができるようになりました。

 

 その後、全羅南道の光州の片田舎を訪れる機会がありました。そこの方言では、어の響きは、イギリス英語の[əː]に似たものでした。無論、これも似ているというだけです。

 

 しかし、私は困りませんでした。例の女性に教わった舌の位置さえ忘れなければ、開口の違いは関係ないようなのです。

 

 皆さんも試してみてはいかがでしょうか。

「発音記号」は純正の「音声記号」にあらず

 英語の辞書を初め、外国語を学ぶ本には発音の説明があり、そこに「発音記号」が用いられています。

 

 これは極めて有用なものなので、学ばない手はありません。

 

 しかし、英語の記号と音を覚え、他の外国語に手を付けると、奇妙なことに気が付きます。

 

 同じ記号であらわされているのに音が違って聞こえる。

 

 これはまだ良い方で、困るのは、本当は違う音なのに、同じ記号であらわされ、しかも違いが聞き取れない場合です。

 

 言語の音を表すための「音声記号(国際音声字母IPA」は、かなり細かな表記が可能になっていますが、特殊なものが多く、普通の印刷には不向きです。それで、簡単なものに省略されて書かれているのです。

 

 [ə]などは、どうしようもないくらい多くの異なる音声に当てられますので、気を付けなければなりません。

 

 実を言えば、ある言語の単音(一つの音)を正確に表記できるというのは幻想です。

 これについてはまた後ほど書くことにします。

音楽の拍子は強弱アクセント

  西洋の音楽には何拍子というのがあり、小学生の頃、この曲は何拍子かという質問が先生から出されたりしたものでした。

 

 ところが、これが結構分かりにくい。特に、2拍子か4拍子かというのが分かりにくかった記憶があります。

 

 大人になってからやっとその訳が分かりました。

 

 何拍子というのは、強弱アクセントに関係があるのです。日本語は高低アクセントですから、分かりにくいのが当然だったのです。

 

 英語でもドイツ語でも、ロシア語でもフランス語でも、歌詞と楽譜を照らし合わせてみると、拍子の初めが必ず、アクセントのある音節に来ていることが分かります。

 

 これを知っているのと知らないのとでは、大きな違いが出てしまいます。

 

 ARIAというアニメーションがありました。その中で、珍しいことにエスペラント語でLumis Eterneという歌が歌われていました。これだけで、或る方面では有名になったものです。

ARIA The Origination ルーミス エテルネ - YouTube

 

 エスペラントの文法的間違いは置いておき、問題は、歌詞のアクセント部分と曲とが合っていなかったことです。

 

 アクセントがそんなに大切なのかと言えば、大切なのです。アクセントのある音節以外はいい加減にしても通じますが、アクセント部分をおろそかにすると、各音節を丁寧に発音しても分かりにくい発音とされてしまいます。

 

 日本人は、強弱アクセントの意識がなく、単語を聞いても、それを高低アクセントの感覚で捉えてしまいます。

 

 かつて、NHKの基礎英語か英語会話かを担当していた東後勝明氏は、同時通訳の体験をしたとき、一語一語の発音を気にせず、アクセント部分に気を付けるようにしたそうです。そして、「分かりにくい」ことで評判の悪い日本人通訳として異例の「very clear」という評価を受けたことを書いています。

 

 ロシア語の黒田龍之助氏も、ロシア語学校のミールで、ウダレーニエ(アクセントのこと)が弱いと常に指摘されたことを書いています。

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 日本の英語教育でも、アクセントをもう少し重要視してほしいと思います。

「アルファベット」ではなく「ローマ字」

 「ローマ字」という言葉の意味を誤解している人が多々あるようです。

 

 ABCDという文字を「アルファベット」とも呼ぶので、それが文字の名前であり、「ローマ字」は、日本語をアルファベットで表記したもののことだと思ってしまうようです。

 

 しかし、これは間違っています。

 

 ローマ字は、ローマ帝国で使われていた文字の意味で、要するにラテン語の表記に用いられた文字の意味に他なりません。

 

 アルファベットは、ギリシャ文字の並びの冒頭三文字「アルファ・ベータ・ガンマ」を代表させて文字の名称とした呼び方ですから、日本語の「いろは」と同じようなものです。

 

 だから、ギリシャはもちろん、ロシアでも、自分たちの用いている文字のことをアルファベットと呼びます。

 

 ABCDの文字名はローマ字です。英語でもromanizedという言い方がされますね。

 

 当然、ラテン語のための文字なので、ラテン語の音声に適したものでした。

 

 それをさまざまな言語に援用したため、そのままでは表記できない音が幾つも出てきて、各言語では独自の音の表記法を工夫しています。

 

 このテーマは、英語式ローマ字表記法を日本語に転用したヘボン式の問題点の話に続きます。

広東語の発音は日本人にとっては普通話より簡単

 中国人の書いた中国語学習書には、方言の説明として、広東語が一番難しいなどとあるものがあります。

 

 現代の共通語である普通話にない「入破音・にっぱおん」が広東語にはあることと、声調が九つあるということからの印象でしょう。

 

 ところが、日本人には広東語のほうが習得が簡単です。

 

 なぜなら、日本の漢字音の漢音に似ているからです。

 

 例えば、六十一という数を普通話では「liu shi yi」と言うのに対し、広東語では「luk sap yat」と言います。

 

 日本の古語では「ろくじふいち」と書きますが、ハ行はP音だったことが予測されていますから、「lok zip yit」のような音だったでしょう。

 

 音声自体も、そり舌音などなく、日本語に近いものです。

 

 広東語の入門書にも現在はいろいろあります。その中でも比較的古い『初めて学ぶ広東語』という、千島英一氏の著作は発音に細かく、優れています。

 

 千島氏は、広東語のローマ字表記を音韻論に従って新たに作った人でもあります。

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 絶版のようですが、古本がまだ入手可能ですね。

英語嫌いだった私を目覚めさせた本

 中学卒業まで、私は英語が嫌いでした。全く勉強しませんでした。

 

 何が嫌だったかというと、外国語の選択肢のなかったことと、英語イコール世界語という感覚だったと思います。

 

 英語は英語圏の人間の言語でしかない。英語を話すものは自分の言語で話すのに、そうでないところの人間は英語を学ばなければならないというのは不公平である。そう感じていました。

 

 その感覚は今でもあります。エスペラントを学んだきっかけも、同様でした。

 

 そんなときに、種田輝豊氏の『20カ国語ペラペラ』という本に出会いました。

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 この本を読んで思ったのが、「英語も世界の言語のひとつなのだ」ということです。

なら、学んでもいいかなと。

 

 この本にあるやり方で、高校1年生の間に大体、英語の進度は追いつきました。

 

 長らく絶版でしたが、再版されてうれしく思います。

悪にはイギリス英語がよく似合う

 日本で習う英語はアメリカ英語です。

 

「英語」とはしかし、字義の上では「イギリス語」です。

 

日本人は、世界ではアメリカ英語が主流だと思っている人が多いようですが、そんなことはありません。

 

イギリスの植民地だったところはイギリス英語の発音で話します。

 

もちろん、この二分法は大雑把な話ではあります。

 

アメリカ英語を日本人が倣うときに気を付けるべきは、いかにも英語の特徴らしいあのR音です。

 

具体的には、音節末のR、laterやwater、furtherなどにある R音のことです。

これらはイギリス英語では消失しています。

 

問題なのは、日本人がアメリカ発音で英語を覚える際、やたらめったらどこにでもRを入れる危険があることです。英語っぽく聞こえますので。

しかし、このRは本当は要らないのです。イギリス発音にはありませんから。

 

私は、高校まではアメリカ発音で練習していましたが、或る時を境にイギリス発音に切り替えました。

 

それはともかく、イギリス発音はアメリカ人に権威的に聞こえるのでしょうか。

 

スターウォーズでは、悪の帝国側の人間はなぜかイギリス英語を話します。

www.youtube.com

 

マイケル=ジャクソンの「スリラー」のナレーションがなぜかイギリス英語です。

嫌味なんですかね。

www.youtube.com