20年近く前のこと、エスペラント関係の知人を訪ねにリトアニアへ行き、1週間ほど過ごしたことがあります。
エスペラント体験についてはまたいつか書こうと思っています。今回はその過程でした貴重な体験をお話しします。
私はリトアニア語は話せませんでしたが、ソシュールの影響もあって、興味を持っていました。そして、せめて発音は身に付けておこうと思ったのでした。
知人は小学校の教員で、小さな村だったこともあり、生徒である男子が知人の家に訪ねてきました。彼はリトアニア語しか話せません。
なお、当時は若者にも英語はほぼ通じず、外国語と言えばロシア語か、年配の人ならドイツ語もできるという具合でした。知人のお父上とはドイツ語で話ができましたが、お母上はロシア人で、ロシア語のできない私は知人の通訳に頼りました。
小学生の彼に私がリトアニア語の発音を言って聞かせると、ほとんど合格したものの、Lだけには何度やっても合格が出ません。英語式の、もしくはドイツ語式のLでは、「イ」が入っていると言われます。いわゆる軟音のことです。
例えばロシア語の子音には「硬音」と「軟音」があることを私は知っていました。そして、軟音と呼ばれるものには「イ」の響きが含まれることも承知していました。語族の違うリトアニア語にもその区別があったのです。
しかし、英語のLが軟音だとは初耳でした。LAと発音した時のどこに「イ」が聞こえるのか、全く聴き取れもしなければ、理解もできませんでした。
結局不合格のまま、私はリトアニアを去ることになりました(目的がそれでなかったから別に良いのですが)。
さて、ドイツに帰った私は、かなりしつこく本を漁りました。と言っても、リトアニア語に関する一般書はごくわずかしかありません。
ついに発見できたのが、この本でした。
ここには、英語でもおなじみの「口の断面図と舌の位置」があり、Lの項目の絵に目が留まりました。
注意すべきは硬音だったのです。硬音は、舌端のやや裏面を前歯の裏に当てて発音します。こうすると、確かに少し違う音価が得られます。
舌端の表面を前歯の裏に当てて発音すると、みなリトアニア人には軟音と聞こえます。口蓋音ではないのです。更にそれは日本語の「リャ」と同じ音だと聞かれます。
日本のロシア語の説明にも、Lの硬音に関する説明は見たことがありません。もしかしたら、知らないのではないかとさえ疑われます。
リトアニア語の硬音のLはロシア語でも硬音と聞かれます。
さらに言うと、エスペラントで会話したリトアニア人には、英語のLは軟音だが、ポルトガル語のは硬音だと言っている人がいて、私にはさっぱり理解できませんでしたが、今なら分かります。