体験的音声学~言葉の音のことさまざま

言語の音声を中心に、いろいろ考えます

日本語のローマ字表記法に物申す

 日本語のローマ字表記法には、これまでさまざまなものが考えられてきました。

 

 古くはポルトガル人がキリスト教布教のために日本語を記録したものが残っています。ポルトガル語の表記法を基にしたものです。

 

 その後、アメリカ人のHepburnによるヘボン式、仮名遣いを基にした日本式、正式なものと国に認められた訓令式が現れました。

 

 ほとんど知られていませんが、言語学者服部四郎博士による、音韻論に基づいた新日本式というものも発表されています。

 

 今から30年ほど前まで、国語の教科書には、ローマ字表記法として、訓令式が載せられていました。現在でも、国語の教科書にそれはあるのですが、当時はまだ、日本語を仮名の代わりにローマ字で表記する日が想定されていたと思しいのに対し、今ではパソコンなどへのタイプ打ちの手段の一つとして取り上げられるようになっています。

 

 困るのは、実際には訓令式はほとんど用いられず、駅でも道路標識でも、使われていたのがヘボン式だったこと、そして、小学校で訓令式を覚えたのに、中学に入って英語を学ぶと、いきなりヘボン式になる事でした。

 

 このヘボン式とは、言い換えるなら英語式のことです。英語を母語とする人間が、日本語に近い音として読むことのできる綴り方を決めたものです。

 

 だから、本来なら日本語の音韻には適っていません。これは、動詞活用の表をローマ字で作ってみるとすぐに分かることです。語幹を規則的に抽出することがヘボン式ではできません。

 

 ところで、日本語にとって極めて重要な要素としてモーラ(拍)というものがあります。故郷と公共と皇居と国境が異なる単語なのは、このモーラによる区別です。

 

 札幌で、odorikoenという標識を見たことがあります。これは「踊り子園」としか読めないのですが、実のところ、「大通り公園」のことでした。

 

 不思議にも、どの日本語ローマ字表記法でも、長音をただ長い音節としか考えてこなかったようです。

 

 正式には、長音は、その母音の上にアクサンシルコンフレックス^、または横棒を置くことになっています。

 

 しかし、上記の例同様、ヘボン式ではそれさえもつけない場合が多くあります。Yokoが「ようこ」だったりします。

 

 長音記号のような特別な記号は、手書きでも分かりづらく、タイプでも、面倒なものです。かと言って、長短を表記しないのは日本語として言語道断です。

 

 やはりモーラを持つ言語としてフィンランド語があります。フィンランド語はローマ字表記の言語ですが、モーラをよく考慮したやり方をとっています。

 

 Amerikkalainen アメリッカライネン(アメリカ人)maailmassaa マーイルマッサー(世界で)のように、促音も長音も2文字重ねます。

 

 私は、日本語ローマ字表記においても、この方法を取るべきだと考えます。「大通り公園」はoodoorikooenです。

 

 最近、パスポート表記に限り、更なる表記上の英語化が進められました。母音の長音をHで表して良いとするものです。Ohdohrikohenとして良いということです。

 

 これは、支離滅裂ではないでしょうか。

 

 ちなみに、韓国語のローマ字表記法も英語式であり、相当に支離滅裂なものだと言わざるを得ません。